日本国有鉄道の軌道バス(ダイハツ・ライトバス)

国鉄時代に肥薩線矢岳駅で撮影されたライトバス型軌道バス。アイボリーとグリーンのツートンカラーである点も保線作業用自動車と共通し、このカラーリングも保線作業用自動車のJRS規格内で規定されている。


■概要
日本国有鉄道(国鉄)が最初に開発した軌道バスで、ダイハツ・ライトバスをベースシャーシとする第1世代である。
昭和41(1966)年1月にJRS規格が制定され、同年3月に大阪鉄道管理局管内へ配備された2両を皮切りに導入が開始された。1)
同年9月には東海道新幹線向け仕様のJRS規格が制定され、1両が米原保守基地に配備されている。2)
翌昭和42(1967)年には在来線仕様と新幹線仕様のJRS規格が統合されると同時に、走行装置に逆転機の装備が追加されたが、これがライトバス型軌道バスの最終形となった。製造数は不明だが、昭和51(1976)年時点で国鉄には19両が在籍しており3)、廃車が無いとするとこれがライトバス型軌道バスの総数という事になる。

■ベースシャーシの解説
ベースシャーシは保線作業用自動車として導入が進んでいたマイクロバスのうち、B2D形に相当する車種であるダイハツ・ライトバス(ダイハツ・SV)が選定された。オート三輪を生産していたダイハツ工業が、初の乗用車であるコンパーノの開発(昭和36年)を発端に、本格的自動車メーカーへの脱皮を進めていた1960年代に開発された車種である。昭和39(1964)年の第11回東京モーターショーでお披露目された後、翌昭和40(1965)年に発売されている。


軌道バスのベースシャーシであるダイハツ・ライトバス。写真のSV32NはSV22Nのマイナーチェンジモデルで諸元はほぼ同一である。
『バス要覧(1970年版)』,モーターマテリアル社,(1970)p178より引用


軌道バスの開発時の保線作業用自動車のJRS規格に記載の諸元表。左から5番目以降がB2D型で、これに相当する各社のマイクロバスの諸元が記載されている。
JRS規格『保線作業用自動車(B形式マイクロバス)』昭和40(1965)年8月24日制定 規格番号:31403-7D-13AR5 p6より引用

愛称のライトバスとは、1960年代当時「マイクロバス」が定員12~17人のバスを意味していたのに対して、それよりやや多い定員20人以上のバスを「ライトバス」としてメーカー各社が呼称していた事に由来し、同時期にはトヨタやマツダも同名のバスを製品化している。4)軌道バス開発当時、国鉄が保線作業用自動車B2D型として導入していたのはSV22N改という型式で、軸距2,750mmのモデルであるSV22Nの派生と思われる。5)
ボデー架装は川崎航空機製造㈱岐阜工場(以下、川重車体)が担当し6)、凸形のフロントグリルと大きな窓が特徴的なスタイリングであった。

■ライトバス型軌道バスの終焉
ダイハツはライトバスを含む小型バスの販売を昭和48(1973)年上半期には終了し、小型バス市場からの撤退している。販売台数が他社に比べて明らかに少ない事から販売不振が原因とされているが7)、折しも昭和43(1968)にダイハツがトヨタ傘下入りした事もあり、トヨタとの棲み分けのためとも言われている。8)
1970年代に起こったバス業界の再編も関係していると思われる。当時のバスシャーシメーカーは架装メーカーの系列化を進めており、元々いすゞとの関係が深かった川重車体は昭和47(1972)年以降いすゞ以外のシャーシへのボデー架装を打ち切ったため9)、川重車体製ボデーを持つライトバスは生産そのものができなくなってしまった。
ライトバス型軌道バスがいつまで導入されたのかは不明であるが、上記の通りベースシャーシの供給が途絶えたため、軌道バスはベースシャーシの変更を余儀なくされたわけである。

■参考文献
1)JRS規格「軌道モータカー(軌道バス)」
2)JRS規格「保線作業用自動車(B形式マイクロバス)」
3)鈴木文彦『日本のバス年代記』,グランプリ出版,(1999)
4)80s岩手県のバス”その頃”『ダイハツ工業(小型バス)』
http://www5e.biglobe.ne.jp/~iwate/vehicle/extra/primer/coach/chassis_micro_daihatsu.html
(2023年2月11日閲覧)
5)新シリーズ”403 Forbidden”『川崎航空機工業ボディのダイハツライトバス(ダイハツ編_2)』
https://hccweb6.bai.ne.jp/~hfg04901/im/403/daihatsu/daihatsu_02.htm
(2023年2月11日閲覧)

■脚注
1)日本国有鉄道施設局「保有機械一覧表」(1966)
2)『官公需入札情報』,通産省公報,(1966年12月15日)p12記載の入札情報による。
3)石原一比古『保線機械のデータブック(主要諸元表)』,鉄道線路,24巻10号,(1976年10月)p87記載の表による。
4)80s岩手県のバス”その頃”『小型バス プロローグ』
http://www5e.biglobe.ne.jp/~iwate/vehicle/extra/primer/coach/micro_index.html
(2023年2月11日閲覧)
5)SV22N改という型式は保線作業用自動車向けでしか確認できず詳細不明
6)現在のジェイ・バス㈱宇都宮工場の前身である。ダイハツ・ライトバス生産中に経営母体が何度も変遷している(川崎航空機製造㈱岐阜工場→川崎重工業㈱岐阜工場→川重車体工業㈱岐阜工場)ため、便宜的に通称である川重車体と呼称する。
7)新シリーズ”403 Forbidden”
https://hccweb6.bai.ne.jp/~hfg04901/im/403/daihatsu/daihatsu_02.htm
8)80s岩手県のバス”その頃”
http://www5e.biglobe.ne.jp/~iwate/vehicle/extra/primer/coach/chassis_micro_daihatsu.html
9)鈴木(1999)p188-190