NR31P・NR32P


新潟トランシスが販売していたNR30級は、国産ロータリー除雪車では最も小型(出力30ps)であった。小型ゆえに性能は貧弱な反面、価格面や大きさから一定の需要が存在し、「とらん丸」という愛称を与えられ除雪機械展示会等でも積極的にPRされていたため、親しみを覚えた方も多いだろう。
この内NR31PとNR32Pには軌陸仕様が存在し、全車がJR東日本へ導入されている。



アタッチメントの豊富さもとらん丸の特徴のひとつ。上は通常仕様だが下は除雪車としては非常に珍しいフォークリフトアタッチメントを装備した状態のもの。この他スノーブレードや草刈り装置も装備できる。 新潟トランシス (4:19)および(6:06)より引用

NR30級は平成19(2007)年頃登場のNR30Pを始祖とし、NR31PからNR32Pへと2回のモデルチェンジを経て令和2(2020)年頃まで販売されていたが、アーティキュレート(車体屈折)機構や除雪装置操作レバー等、一般的なロータリー除雪車の標準装備を採用していない点が見受けられ、新潟トランシスで製造されているロータリー除雪車各機種とも仕様が大きく異なる。
この理由について、NR30級はIHIアグリテック(新潟トランシスと同じくIHIグループ所属)製芝刈り機をベースシャーシとし、新潟トランシスで除雪装置と運転室を二次架装して製造された機種であった可能性が考えられる。
IHIアグリテックの芝刈り機には、「MCシリーズ」というリヤエンジン且つ芝刈り装置が運転台より前方に装備された機種が存在し、機関室周り等各部の造形がNR30級と酷似している事からNR30級のベースシャーシと思われる。



IHIアグリテック製MC254/364(上)とNR32P(下)の比較。両車ともシバウラN3LDI-T型原動機を搭載し、機関室周りの造形が一致する他、NR32PにはMC254/364に装備されていた前輪フェンダーを外した跡と思われるメクラビスが確認できる。MC254/364の画像は同機種カタログより引用。

■参考文献
1)IHIアグリテック『MC254/MC364 フロントモアMCシリーズ』製品カタログ,https://www.ihi.co.jp/iat/shibaura/green/support/pdf/rotary-mower/mc254/MC254-364P.pdf ※2022年11月27日閲覧
2)新潟トランシス『乗用式小型除雪車 とらん丸』PRビデオ,https://www.youtube.com/watch?v=R3CzBweJLRM ※2022年11月27日閲覧
3)『JR東日本、秋田新幹線脱線事故受け防雪柵の設置・除雪強化など防止策を公表』,「マイナビニュース」2013年11月19日
4)『小型除雪機導入、順次救出で再発防止 JR信越線立ち往生から1年』,「産経新聞」2019年1月10日
5)新潟トランシス『道路除雪車NRのリコールのお知らせ』,https://www.ihi.co.jp/iat/shibaura/green/support/pdf/rotary-mower/mc254/MC254-364P.pdf ※2022年11月27日閲覧


■NR31P

平成25(2013)年11月製 製番0030 ※通常仕様と連番と思われる
大曲保線技術センター所属
軌陸とらん丸としては恐らく最初の個体である。


■NR32P

平成30(2018)年11月~平成31(2019)年1月製 製番1001~1017 ※通常仕様と連番ではないと思われる
NR31P以来5年ぶりの増備となり、17台がJR東日本管内の降雪地域各所に配備されている。
同社は平成30(2018)年1月11日の雪害で乗客430人を乗せた信越本線の列車立ち往生が発生している。この時を含め、列車立ち往生時における列車前後の除雪は手作業であったが、これの機械化を目的に導入された。トラックの荷台に載せて現場へ素早く運ぶ使用方法を想定したため、本機種のような小型除雪車が選定された。