日本国有鉄道の軌道バス


■概要
保線作業員の輸送は長らく兼用型等のモータカーが担ってきたが、1960年代になると道路整備が進んだため自動車による輸送が主流となっていった。国鉄は作業員輸送に特化した自動車である「保線作業車」を昭和38(1963)年に試作し1)、このうちマイクロバスをベースとしたB形は同年中にJRS(日本国有鉄道規格)で「保線作業用自動車(B形式マイクロバス)」(以下、保線作業用自動車)として規格制定2)され実用段階に入った。


昭和38(1963)年に試作された保線作業用自動車(B形)。ベースシャーシはダイハツ・DV型ライトバスで、後に軌道バスのベースシャーシとなるダイハツ・SV型ライトバスとは、ブランド名こそ同じだが別の車型である。
『保線作業車 2形式登場』交通技術,18巻5号(1963年5月p174)より引用

しかし沿道が整備されていない線区において自動車のみでの移動は困難であった。これの解決策として、先述した保線作業用自動車をベースに3)、線路を走行して移動できるマイクロバスという位置づけの「軌道バス」が開発された。昭和40(1965)年に軌道モータカーを改造したものと思われる試作車が製作された後4)、翌昭和41(1966)年1月には「軌道モータカー(軌道バス)」としてJRSで規格制定され本格的な導入が開始された。なお、規格名称の通り、国鉄は軌道バスを軌道モータカーの一種と見做していた様である。

ベースシャーシ JRS規格制定年月日 JRS規格番号 JRS規格名称 記事
ダイハツ・ライトバス 昭和41(1966)年1月25日 75402-12A-13CR6 軌道モータカー(軌道バス) 在来線用
昭和41(1966)年9月27日 75402-14A-13CR6 軌道モータカー(新幹線用軌道バス) 新幹線用
昭和44(1969)年9月 75402-12B-13AR9 軌道モータカー(軌道バス) 昭和41年規格の改良(逆転機装備等)
在来線用と新幹線用の規格が統合される
いすゞ・ジャーニーM 昭和52(1977)年12月27日 75042-12C-13AR7B 軌道モータカー(軌道バス) ベース車変更
新幹線用(広軌用)の設定が削除され、寒地仕様の設定が開始される
昭和54(1979)年9月14日 75042-12D-13AR9B 軌道モータカー(軌道バス) 昭和52年規格の改良(逆転機装備等)
昭和56(1981)年3月31日 75042-12E-13AR1GB 軌道モータカー(軌道バス) 特定調達対象品目指定に伴う改訂

軌道バスのJRS規格の変遷。『鉄道線路』誌各号記載の「JRS情報」から改訂履歴を辿り作成。

同規格の変遷を上記に述べるが、規格制定時はダイハツ・ライトバス(ダイハツ・SV)がベースシャーシとなっていた。昭和52(1977)年の規格改訂以降はいすゞ・ジャーニーM(いすゞ・BL)にベースシャーシが変更され、このまま国鉄分割民営化に伴うJRS規格自体の廃止まで導入が続いている。本DBでは便宜的に前者を第1世代、後者を第2世代として分類し解説する。

■軌道バスの構造

軌道バスの全体図。両側面に吊り下げられた離線用レールと、ホイールベース間に装備された軌間1,000mmの離線用車輪が確認できる。走行装置以外に注目すると、折り畳み式机やコンセント等を装備するが、これは保線作業用自動車と共通する装備である。
JRS規格(昭和56年規格)p14より引用


軌道バスの転車風景。左リヤオーバーハングに書かれた機械番号から中部天竜の個体である。
村上(1996)p44より引用

先述の通り保線作業用自動車をベースとし、性能や装備はほぼ共通しているが、軌道自動車であるので油圧式転車台を装備している。離線の際は先述の油圧式転車台の他に、両側面に吊り下げられた離線用レールと車体の枕木方向に装備された離線用車輪を用いて離線および待避を行う。なお第1世代では昭和44(1969)年規格から、第2世代では昭和54(1979)年規格から逆転機が装備されるようになり、等速走行での後退が可能となった。

■参考文献
1)JRS規格「軌道モータカー(軌道バス)」
2)JRS規格「保線作業用自動車(B形式マイクロバス)」
3)秋元清『保線作業車』,新線路,17巻7号,(1963年7月)
4)村上龍雄『私の知っているバス達(いすゞ自動車)』,ぽると出版,(1996)

■脚注
1)秋元(1963)によると、A形とB形が試作され、A形はボンネットバスをベースシャーシとしていた。A形は移動基地としての使用を想定しており、寝台に転用できるシート、ロッカー、ガスレンジ等を装備していた。一方のB形は作業員輸送を主目的としており、結果的にこちらのほうが実用化された事になる。
2)秋元(1963)p29
3)軌道バス開発当時に適用されていた保線作業用自動車のJRS規格(昭和40(1965)年8月24日制定 規格番号:31403-7D-13AR5)をベースとしている。保線作業用自動車は定員別にB1~B4形に分類されており、これに加えてディーゼル動力かガソリン動力で細分類されていた。規格ではこの分類を当時市販されていたマイクロバスの全車型に当てはめており、市販車を保線作業用自動車として導入する事が可能だったが、実際どの程度まで導入されたのかは定かではない。なお、軌道バスのベースとなったのはB2D形(ディーゼル動力)である。
4)日本国有鉄道施設局「保有機械一覧表」(1966)には、大阪局に配置されている昭和27(1952)年高田機工製軌道モータカーが昭和40(1965)年3月31日付で軌道バスに改造されたとの記述がある。