スマホの光学10倍ズームを試す


■はじめに
2024年3月、暴力ズームことNikon P1000が廃盤になったとの情報が流れ保車鉄界隈にも衝撃が走った。
いちP1000ユーザーとして後継機発売の一縷の望みに賭けて地道な「布教活動」を行なってきたが「ついにこの時が来てしまったか」という残念な気持ちとなった。

P1000は遠くのものを無理くり引き寄せるという機能に特化したモデルでありながらも幅広いシチュエーションに対応できる優れた良い製品だと今でも思っている。しかしながら超望遠性能に付加価値を感じる層はあまりいなかったということなのだと思う。

また時を同じくしてサムスン電子のGalaxy S24 Ultraが発売になったが、先代のGalaxy S23 Ultraの光学10倍ズームから後退して光学5倍ズームとなってしまった。
Galaxy S23 Ultraは「スマホ界のP1000(誰も呼んでいないと思うが)」的な存在で、スマホであるにも関わらず驚異の焦点距離230[mm]光学10倍ズームを備えていたが、新型で5倍どまりになったことを考えると光学10倍は「過剰」とみられてしまったのだろうと思う。

それはさておき、今後望遠性能で上回るモデルは出てこないと思われる「銘板も回収できるスマホ」Galaxy S23 Ultraがどこまで保守用車鉄活動に活かせるのか興味はないだろうか。

当コラムはその実力をレンタル機にて検証したものである。

なお、このコラムは2023年11月に開催された第2回保守用車鉄研究発表会での発表『「スマホ鉄かよ」なんていわないで』を再構成したものであることを付け加えておく。

 

■検証項目
Galaxy S23 Ultraの検証項目としては以下の4つとした。

1.2億画素で保守用車を撮るとどうなるか
2.10倍ズームで様々な銘板を撮る
3.例の新宿駅のホームで暗所性能を試す
4.夜間作業を撮影

 

■2億画素で保守用車を撮るとどうなるか
画素数と画質は比例するものではないが、当機は2億画素で撮影することが可能である。
デジタル一眼レフであっても2000万画素クラスも珍しくない中、2億画素で撮るとどうなるか、まずは紹介する。

△焦点距離23[mm]で2億画素で撮影したもの

上記は交通建設の100[m]レール運搬車の例である。画像を縮小しているため2億画素であることはわからないが、オリジナルサイズはJPEGで23[MB]と大きい。

2000万画素クラスの一眼と比較するとこのような感じとなる。

画像のアスペクト比が異なることを考えてもたった1[mm]の焦点距離の違いにしては画角がかなり異なるという印象を受けた。

等倍切り出しにするとこのようになる。

△交通建設のロゴ付近を等倍で切り出したもの

交通建設のロゴ周辺を切り出してみた。細かい描写も結構良いように感じられるが交通建設の「建設」の部分、AIが文字と認識できず崩れてしまっているのが確認できる。AI補正はかなり効いているようだ。

同様に交通建設のロゴ部分を等倍切り出しして比較してみるとこうなる。

画素数が10倍近く違うので2億画素で撮ると画像の大きさはかなり異なってくる(スマホで見ると実際よりも小さい差に見えるので是非パソコンで見ていただきたい)。

 

■10倍ズームで様々な銘板を撮る
次はこのコラムで読者が一番知りたいであろう内容となる。外出中にたまたま通った駅で保守用車がいつもと反対を向いていて銘板がこちらを向いている。カメラは持ってないがスマホは光学10倍のスペック、一体どこまで行けるのか…?というようなシチュエーション時の検証である。

検証結果を3つ用意した。

まずは楕円銘板の堀川工機の軌道モーターカー、WD-H20CATDWを撮影した作例を見ていただこう。銘板を10倍ズームで狙ってみると…

△メトロ綾瀬にいた堀川工機のWD-H20CATDW

正確には3倍程度のデジタルズームと併用した結果となるが鮮明に撮れているのがお分かりいただけると思う。性能銘板の方も打刻の読み取りは容易であった。ちなみにデジタルズームは機種によっては画像が粗くなり使用を敬遠したくなるものもあるが当機ではそういったことは感じられなかった。また、被写体の大きさに合わせて倍率の微調整は容易であった。

続いて保線機器整備ののせ太郎の例である。

△同じくメトロ綾瀬にいた保線機器整備ののせ太郎(HKS10100)
△台車銘板と上物銘板。どちらも問題なく読み取り可能だった。

こちらは光学10倍ズームのみ。台車の銘板、上物の銘板共に良く撮れている。

最後はマツヤマ(松山重車輛工業)のMR1578である。

△メトロ行徳の裏で放置されているMR1578

メトロ行徳の裏でヌシとなりつつある個体であるがこちらはどうだろうか。

△打刻は読める部分と怪しい部分が混在している

こちらは先ほどの2枚よりも被写体が遠かったので銘板の打刻は読めるが一部怪しい…という結果だった。

 

■例の新宿駅のホームで暗所性能を試す
スマホはカメラがない時の急場しのぎの機材なので暗所では写っていればOKという見方もあるだろうが、綺麗に撮れるに越したことはない。コンデジとの比較を行った。場所は高倍率ズームコンデジの記事でも訪問した新宿駅の5,6番線ホームである。

まずは引きの画像、3倍での撮影。綺麗に撮れている。P1000とSX720で撮ったものと比べてみると…

履帯のあたりなどむしろコンデジよりくっきりと写っているように見える。

次にこちらに向いた銘板を10倍ズームで撮ってみる。結果は

△残念ながら打刻を読み取ることはできなかった。

明るい場所なら撮れた可能性もあるが暗く、銘板が少し遠かったため読み取りはできずという結果に終わった。何枚か撮ってみたが手持ち撮影でブレはしていないので手振れ補正は結構強力なようだ。

 

■夜間作業を撮影
最後に夜間作業撮影時に連れ出した結果である。
スマホで夜間撮影など無謀極まりない気もするがどうだろうか。

借りた日に夜間作業がある保証はなかったもののいくつかの現場に遭遇できた。(上手い下手はさておき)作例を6つ紹介する。


まずは載線後の軌陸車で作業員が荷台に乗って現場まで…というシーン。流し撮りのようにもなっているが概ね綺麗に撮れている。

高所作業を上から撮ったもの。画面内に照明の明かりがいくつもあり破綻は特に見られない。

先ほどの軌陸車を縦構図で下から。明るさが不足するかと思われたが良く描写できていると思う。等倍のレンズは2億画素モードでなければを16画素を1画素として光を取り入れているので暗所性能は結構高いという印象。

遠目の軌陸クレーン車を撮ったもの。同じように撮った一眼では出なかったゴーストが出てしまっている。とはいえ夜間作業の雰囲気が出ていて悪くはない。

軌陸車を撮ったもので2番目の作例の別アングル。こちらは画面全体が暗くなってしまっている。明るいところはいいが、手前の車のナンバープレート辺りなど暗いところは補正しきれずにやや厳しい感じに。とはいえスマホと考えれば十分以上ではあるが…

最後が3倍ズームで説明文の文字の崩れが出るかみたもの。これは良く描写できている。

 

■まとめ
・売りの2億画素モードはファイルサイズが巨大になる上画質が秀でているわけではないので積極的に使いたいというものではないという印象だった。
・10倍ズームはデジタル一眼のように等倍で銘板が読めるわけではないが少し離れた銘板なら回収できる能力は十分ある。
・レンズ径が小さいため他の機材だと金網を拾うような場面でもすっきりと撮影可能。この条件ではある意味最強といっていい。
・夜間撮影は思った以上に健闘していた。

平均点は高い優等生タイプでこれ一台で何でもこなすとい使い方ならば一台持っておくのは個人的にはアリだと思う。
但し、一眼やデジカメも持っている状態では敢えてスマホで持ち出して撮るかと言われるとちょっととなるのが正直なところである。

とはいえスマホは常に携帯しているので出先で思わぬ銘板に遭遇して見事回収…というアツい展開は十分期待できるといえる。

 

なお、ネットフェンス越しの撮影性能を検証したコラムでもGalaxy S23 Ultraを取り上げているので合わせて見ていただけたらと思う。