U704・U705

(写真:飯田線沢渡駅にて載線し留置されているU704+705。写真の様に2編成で運用されている。)

■概要
JR東海では平成23(2011)年度より電車線におけるき電吊架線化が開始された。
従前4本あったき電線をき電吊架線化し2本に、配電線を5本から2本に削減し、配電線もケーブル化する事で、設備の簡素化・保守作業の効率化および機械化と安全性向上を目的としている。また、各電車線の集約により架線柱のビームより上の高所作業が不要となったため、より簡素な鋼管ビームへの交換も同時に行う事とした。


従前の電車線(左)とき電吊架線化した電車線(右)との比較。配電線とき電線が大幅に削減されている。
加藤・清水・太田(2015)図1より引用

き電吊架線化は既にJR東日本およびJR西日本で進行中であったが、JR東海独自の点としてシューチェーン延線装置1)を使用した張力印加工法を採用したところが挙げられる。JR東海では線条が太く重量物であるき電吊架線をたわみ無く延線作業できる工法と、極力短時間で作業できる工法を模索しており、2)既に送電線工事などで実績のあった本工法を採用する事となった。
従前の延線作業ではドラムの構造上延線速度が一定にできず高い張力が掛けられなかったが、本工法ではドラム~電車線の間にシューチェーン延線装置を介すことで、シューチェーン延線装置~電車線間は一定の延線速度かつ高い張力で延線作業が可能となり、たわみが無く短時間での延線作業を実現させている。

本工事の当初においては、延線装置を現場まで輸送し、沿線の道路や空き地にシューチェーン装置を据え付けた上、軌陸高所作業車を用いて延線作業を行っていたが、宅地化していたり道路が狭隘である区間においては、据え付け場所が無いためシューチェーン延線装置が使用できない問題点があった。
この解決策として、シューチェーン延線装置を搭載した軌陸延線車を開発する事となった。

架装はアイチコーポレーションが担当し、U704の機種名が与えられている。ベースシャーシはいすゞ・フォワード(中型トラック)だが、車両総重量16t級の大型モデルを採用し、安田製作所製シューチェーン延線装置を搭載している。


U704。ベースシャーシはフォワードの4輪仕様で最大サイズである車両総重量16t級。

き電吊架線用ドラムを搭載し、U704によって牽引されるトロについても同社により開発された。こちらはU705の機種名が与えられ、三東製10tトロ3)に安田製作所製ドラム架台装置が搭載されている。


U705。三東製の一般的な10tトロにドラム架台装置が搭載されている。

U704およびU705の各部諸元は下記の通り。

軌陸両用車
(U704)
ベース車両 いすゞ QKG-FVR34U2
寸法 長さ8,920mm×幅2,490mm×高さ3,550mm
重量 15,360kg
延線・巻取装置 寸法 長さ3,100mm×幅1,660mm×高さ2,200mm
重量 3,190kg
最大適用電線 D-SB-TACSR 1050mm2(外径φ39.4)
最大張力×速度 29.4kN(3,000kfg)×20m/min
最大速度×張力 60m/min×9.8kN(1,000kgf)
ドラム架台装置 寸法 長さ2,300mm×幅2,400mm×高さ1,605mm
重量 1,730kg
最大適用
電線ドラム
M17-6T
(D-SB-TACSR1050mm2用鉄製ドラム)
制動・巻取能力 2.45kN(250kgf/m)

加藤・清水・太田(2015)表2より引用

シューチェーン延線装置を使用した張力印加工法は、巻き取り側と送り出し側の両方から張力を掛けることを特徴としている。
このため実作業においてはU704+U705の編成が2本必要となり、作業着手前に側線において載線している光景がたびたび目撃されている。


U704+U705の実作業における配置図。延線用ロープを介して送り出されたき電吊架線に巻き取り側と送り出し側から張力を掛ける。
加藤・清水・太田(2015)図3より引用

■参考文献
1)加藤博之・清水隆行・太田博之『き電吊架線化工事施工方法の確立と軌陸両用き電吊架線延線車の導入について』,鉄道と電気技術,26巻2号,,(2015.2)

■脚注
1)電力業界では延線装置自体を「延線車」と呼称する場合がある模様だが、延線装置を搭載した軌陸車という意味の「延線車」と紛らわしいため、本記事では延線装置と呼称する。
2)東海道本線の停電作業時間が80分しか確保できないという事情から短時間での作業方法が模索されていた。
3)U705にはアイチの銘板と三東の銘板が貼付されているが、アイチの銘板のほうが製造年月が新しく最終納入者がアイチであると判断できるため、本DBではアイチ製のトロとして扱う。


U704

神領電気区所属
製造番号:738990
製造年月:2013.2


神領電気区所属
製造番号:739121
製造年月:2013.2


浜松電気区所属
製造番号:739261
製造年月:2013.2


U705
(三東機種名:10T-380N)

製造番号:739665 (三東製造番号:12CD091)
製造年月:2013.2 (三東製造番号:2012.12)

(三東機種名:10T-380N)

製造番号:739749 (三東製造番号:12CD092)
製造年月:2013.2 (三東製造番号:2012.12)