高所作業車試乗体験に供されているU498。
接地用パンタグラフを作動させないと高所作業装置が昇降できない安全装置が装備されており、線路外であるが接地用パンタグラフが上昇している。
■概要
90年代までに軌陸高所作業車はある程度普及したが、多くは垂直上昇式であり、その構造ゆえに作業床の上昇高さの限界はトロリ線までとなる。しかし架線柱のビームをかわしてトロリ線より上のき電線まで届くブーム式軌陸高所作業車のニーズは存在し、確認できる最古の事例として平成5(1993)年には名古屋鉄道(名鉄)がブーム式軌陸高所作業車を開発している。1)
JR東日本では平成元(1989)年より垂直上昇式軌陸高所作業車の導入が開始されたが、これの更新用として平成13(2001)年に開発されたブーム式軌陸高所作業車がU498である。現場では“マジックボーイ”の愛称を与えられている。2)
開発に当たっては現場の意見が多く反映されており、上記事例と同じく作業床の上昇高さ確保のため、ブーム式軌陸高所作業車として開発される事になった。後述する通りこの他にも様々な箇所に現場の意見が反映されている。
平成13(2001)年3月までに狭軌仕様7台および狭軌・標準軌両用仕様1台が導入されたのを皮切りに、平成29(2017)年まで15年以上導入され続けたロングセラーであり3)、事実JR東日本管内において頻繁に見かける機種である。
■構造解説
・車台…普通自動車免許で運転できる様に車両総重量は8t未満となっており4)、従ってベース車も小型トラックとなっている。
車台についての各部諸元は下記の通り。
項目 | 寸法・重量 | 備考 |
全長×全幅×全高 | 6140×2180×3300mm | |
車両重量 | 7470kg | 軌間両用仕様は7520kg |
車両総重量 | 7985kg | |
最大積載量 | 350kg | 軌間両用仕様は300kg |
乗車定員 | 3名 |
塚原(2001)表-1より引用
・高所作業装置…作業床に設置された操作ボックスからブームの操作を行う。
この他、作業床には油圧動力取り出し口が設置されており、高所作業をしながら油圧工具を使用する事を可能としている。
また、作業床への出入りは従来車では作業床に備え付けられた梯子を用いていたが、本機種では階段状のステップを設けて、作業前における安全性も確保している。
作業床に設置された操作ボックス
作業床へのステップ
高所作業装置についての各部諸元は下記の通り。
項目 | 寸法・荷重 | 備考 |
作業床内寸法 | 2500×1500×900mm | 奥行×幅×高さ |
最大地上高 | 7500mm | レール上面~作業床面 |
最大作業範囲 | 4900mm | |
作業台旋回角度 | 左120°~右120° | |
積載荷重 | 400kg | |
ブーム起伏角度 | -15°~81° | |
ブーム旋回角度 | 360°全旋回 |
塚原(2001)表-2より引用
・ジャッキ…高所作業中の安定性確保のため油圧ジャッキを装備するが、ジャッキ使用中においても鉄輪がレールから浮き上らず脱線しない仕様となっている。
・接地装置…アースとして機能するよう後鉄輪のフランジには銅板が巻かれており、パンタグラフからの電流を後鉄輪へ短絡させている。なおパンタグラフ~架線間の高さの変位と連動し作業床の高さを自動調整するトロリ線自動追随機能も装備されている。
・軌道走行装置…アイチコーポレーションがRL050より搭載している油圧走行機能を装備し、前鉄輪自体が駆動する。
走行操作はベースシャーシのキャブ内および作業床操作パネルの両方で可能である。キャブ内で操作する場合は、前後進切替スイッチの操作により前進および後進をベースシャーシのアクセルペダルで操作でき、登坂切替スイッチの操作により高いトルクを発生させ勾配走行も実現している。
作業床で操作する場合は走行操作レバーを前後いずれかに倒すことで前後進を行い、3~15km/hの範囲なら定速走行も可能である。
軌道走行装置についての各部諸元は下記の通り。
項目 | 寸法等 | 備考 |
鉄輪径 | 前鉄輪 φ455mm | |
後鉄輪 φ385mm | ||
フランジ高さ | 30mm | |
絶影・短絡切替 | あり | |
鉄輪左右間の絶縁抵抗 | 10MΩ以上 | 乾燥状態 500Vメガテスタ |
転車台旋回角度 | 360°全旋回 | |
使用可能最大カント | 105㎜ | 0/1000にて |
最高速度 | 45km/h | 直線、0/1000、乾燥 |
30km/h | 直線、25/1000、乾燥 | |
制動性能 | 初速45km/hにて 57m以下 |
直線、0/1000、感想 |
初速45km/hにて 100m以下 |
直線、0/1000、湿潤 | |
登坂能力 | 35/1000以上 | |
遠隔走行速度 | 3km/h~15km/h |
塚原(2001)表-3および表-4より引用
・転車台…転車台および鉄輪の操作は左右両側面に装備された操作パネルで行う。複線区間において一方の線路が閉鎖されておらず列車が通過する現場で作業する場合があり、作業員の事故防止のため左右側面のいずれかで操作できるよう配慮されている。
・安全装置…作業車の閉じ込め防止や事故予防のため各種安全装置を装備する。
安全装置についての各部諸元は下記の通り。
名称 | 役割 | |
高所作業用 安全装置 |
過負荷防止装置 | ジャッキ設置の有無、カント、ブーム旋回位置 ブームへの負荷状況を自動的に判断し、作業範囲を規制し、車両の転倒を防止 |
ブームインターロック装置 | ジャッキの出し忘れのインターロック装置 軌道内では鉄輪またはジャッキ非接地時に格納状態からのブーム作動を制限 |
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ジャッキインターロック装置 | ブーム作動状態でのジャッキ格納を防止するインターロック装置 ※軌道内でのジャッキ作動はブーム姿勢が一定範囲内であればブーム非格納時に作動可能 |
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自動格納装置 | ブーム・作業床の格納一連動作をスイッチひとつで行う | |
干渉防止帰省装置 | ブームや作業床が車体やキャビン、接地用パンタグラフと干渉しないようブーム作動を停止させる | |
接地パンタグラフ インターロック装置 |
①接地アースコネクタがセットされていないとパンタグラフが上昇せず接地不良を防止 ②接地用パンタグラフをセットしないとブームが作動せず、接地忘れを防止 ③ブームを格納させないと接地用パンタグラフの格納を規制し、接地忘れを防止 |
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軌道内ブーム旋回規制装置 | 車両右側または左側の危険側ブーム旋回を規制 | |
軌道走行用 安全装置 |
(軌道)走行規制装置 | ①鉄輪が完全に張出されていない状態での走行を規制 また転車台の未格納・ジャッキ設置状態での走行を規制 ②ブームが格納されていない状態での(車両運転席内)走行を規制 ③作業床操作電源スイッチが「入」状態での(車両運転席内)走行を規制 ④作業床が側方の設定限界を超えた際の走行を規制 |
緊急格納装置 | ①鉄輪モーターフリー機能 鉄輪モーター部のブレーキを解除することで、被けん引にての移動が可能 ②パンタグラフ・ブーム・旋回台・ジャッキ・鉄輪・転車台の作動不能時 ・非常用ポンプによる格納 ・油圧取出口~各作動部間のホース直結による作動 ・ハンドポンプによる格納(ブーム旋回台以外) ・クランクハンドルによる格納(ブーム旋回台) ・バルブ開放による自重降下 |
塚原(2001)表-5および表-6より引用
この他、バッテリー上がり時用の予備バッテリーを装備している。
■参考文献
1)塚原元義『新型架線作業車の導入』,鉄道と電気技術,12巻10号,大成社,(2001.10)
■脚注
1)田ノ口一則『新型軌道兼用高所作業車(バケット車)の導入について』,鉄道と電気技術,6巻5号,大成社,(1995.5)
2)平成21(2009)年に開催された「JRおおみや鉄道ふれあいフェア」における本機種展示の説明書きによる。
3)令和元(2019)年に開催された第6回鉄道技術展にて頒布されたアイチコーポレーションのカタログによると、平成29(2017)年にU498の生産は終了している。
4)開発当時の普通自動車免許(平成19年法改正以前)は車両総重量8t未満の自動車の運転が可能であった。
仙台電力技術センター所属
型式:U498
製造番号:771899
製造年月:2017.02
新潟電力技術センター所属
製造番号:704655
製造年月:2007.3
新潟電力技術センター所属
製造番号:7375?7
製造年月:2012.9
新潟電力技術センター所属
製造番号:755007
製造年月:2015.3
新潟電力技術センター所属
製造番号:771890
製造年月:2017.1
長野電力技術センター所属
型式 U498
製造番号 737621
製造年月 2012.09
高崎電力技術センター所属
製造番号:744078
製造年月:2013.11
我孫子電力技術センター所属
製造番号:771891
製造年月:2017.01
大宮電力技術センター所属
型式 U498
製造番号 742853
製造年月 2013.09
大宮電力技術センター所属
型式 U498
製造番号 766358
製造年月 2016.03
八王子電力技術センター所属
製造番号:737646
製造年月:2012.9
所属会社不明 ※JR東の中古機と推定
製造番号:674079
製造年月:2002.2
所属会社不明 ※JR東の中古機と推定
製造番号:679533
製造年月:2003.9