(写真:90年代後半、日高本線本桐駅で留置中の本機種。ライニングワイヤーが通せる様、車軸がない構造がよく分かる。)
北海道内でPlasser & Theurer(P&T) 07型マルチプルタイタンパに連結されて運用されていたトロリーである。
元々は、P&T 07型でライニング作業をする際、ライニングワイヤーの後端を固定するためのトロリーであった。
■P&T 07型のライニング機構について
P&T 07型のライニング装置は赤外線式とワイヤー式が存在したが、ワイヤー式のライニング機構について解説したい。
下図の通り、ライニングワイヤー(測定コード)は本体からけん引されている後部張線ボギー(A点)を起点に、測定点であるB点およびC点を通り、本体前端に設置されている前部張線ボギー(D点)まで張られている。

P&T 07型のライニングワイヤー位置とライニング機構 庄野克彦「各種マルタイとライニング機構」,新線路,40巻10号(1986.10) 図-2-(1)より引用
MTTが曲線上にある場合、下図の通りA~C~D点間のワイヤーの長さと、A~B~D点間のワイヤーの長さから、B点とC点との正矢比H2:H1は1:1.02とほぼ同一となり、理論上は曲線の半径Rの値が変わろうとその正矢比は不変である。ただしC点直下の軌道、すなわちタンピングツール付近の軌道がタンピング前で通りが狂っている状態であると、A~C~D間およびA~B~D間のワイヤー長さの比率が変わってしまいH2:H1の比率も1:1.02から大きく崩れてしまう。
07型のライニング機構は、C点直下のレールをリフティングユニットで持ち上げて移動させ、B点とC点の正矢比が1:1.02となるまで通り整正を行うものである。なお直線上でも半径Rの値が∞である曲線と考えることで同じ理論が成立する。また、緩和曲線等途中で半径Rが変わる線路で測定する際は、B点との比率を1;1.02にするため、C点に補正値を加算して入力する事ができる。補正値はC点直下の線路の半径Rによって異なり、取扱説明書に記載されている。
上記方式のライニング機構のことを4点式と呼称する。

P&T 07型のライニングワイヤー正矢比の解説図 庄野克彦「各種マルタイとライニング機構」,新線路,40巻10号(1986.10) 図-2-(2)より引用
■後部張線ボギー代用トロリーの登場
ところが実際に運用してみると、メーカー純正の後部張線ボギーは本体から降ろして線路上にセットアップするまで約20分もの時間を要するため1)、間合い時間の少ない国鉄の線路上では不向きであった。配備先によっては、基地出発時点で後部張線ボギーがオンレール状態にできる様、本体と連結できる仕様のトロリーを自作し後部張線ボギーの代用とする場合があった。2)本機種もその一例である。
北海道内で運用中の07型に連結されている状態の写真が多く残されており、全道で広く使用されていたものと思われる。
製作は長谷川工作所が担当3)し、軌間中央をライニングワイヤーが通せる様に車軸が無い独立車輪である事も特徴であった。

室蘭本線由仁駅で撮影された07型マルタイと本機種。後部張線ボギーの代わりとなる位置に連結されており、撮影が国鉄時代であることから、本来の用途で使用されていた時期の可能性がある。
■4点式→3点1直線式ライニングへの移行
1980年代になると、広島保線区のオペレーターであった熊野唯夫が発案した方式に代表される様に、レベリングと同じく3点1直線方式で行うライニング方法が開発され運用されるようになった。例えば熊野の方式では、B点のワイヤーを軌間中央に固定した状態で、元から軌間中央に固定されているD点(前部張線ボギー)まで張線し、C点が軌間中央になるまで、すなわちB~C~D点が1直線になるまで整正を行うものである。曲線においては、曲線の半径Rから補正値Vを計算し、ワイヤーが補正値Vの位置となるまで整正する事で同じ方式を実現している。

熊野唯夫が考案した07型の3点1直線式ライニング。図-9-2(左)が曲線、図-9-1(右)が直線作業である。熊野(1981.12)より引用。
3点1直線式ライニングの一般化とは、後部張線ホギーが使用されなくなるという事である。北海道内でも3点1直線式ライニングへの方式の移行が行われた模様で、本機種もライニング用としては使用されなくなった。その代わり、ジャッキやチェーンブロック等の脱線復旧機材の運搬車として引き続きMTTと連結された状態で運用が継続された。3)
北海道内で07型が全滅すると同時に、本機種も運命を共にした模様だが、その存在は国鉄における07型マルタイの運用方法の変遷を伝える生き証人ともいえるものであった。
■参考文献
1)熊野唯夫『マルタイの効果的な使用法』,新線路,35巻12号(1981.12)
2)古谷慎吾『プラッサーマルタイによる通り整正作業』,新線路,36巻9号(1982.9)
3)落合知行『JR北海道の保線機械』,CENTER CAB,53号(1994.3)
4)保線機械研究グループ『マルタイの構造・取扱い』,日本鉄道施設協会,(1981)
■脚注
1)熊野(1981.12)
2)古谷(1992.9) 古谷は当時徳山保線区員であったが、本機種と同じ用途と思われるトロリーを保線区で自作し運用させている。
3)落合(1994.3)


